資金繰りで悩む農家、新規就農者に読んで欲しい記事②資金繰り表の読み方を解説
前回の記事は、
『確定申告で提出した書類と
営農口座の通帳があれば、
あなたの資金繰り表が作成できる!!
作ってみよう!』
という内容でした。
前回の内容を実践して下さった方は
『1年前、2年前の自分の資金繰りの実績』
が手元に出来ていると思います。
また、
今年の売上予測が立てられる方、
翌年以降の目標金額や、目標所得が決まっている方は、
今年の資金繰り見込みや、
翌年以降の資金繰り予測も完成していることと思います。
今回の記事では、
その出来上がった資金繰り表の実際の読み方をご紹介します。
目次(クリックすると、該当の段落に移動します)
資金繰り表の読み方解説
まずは実例:年収520万円VS年収800万円
前回の記事で、例として架空の農家の資金繰り表を作成しましたが、
この農家の資金繰りはどうだったのかを見ながら、表の見方を学びましょう!!
今回は、この農家の
2017年、
2018年、
そして2023年の比較をしてみます。
資金繰り表がない状態で見比べると・・?
まず、皆さんに
『資金繰り表スゲェ!!!』
と言ってもらいたいので、資金繰り表がない状態、
つまり、確定申告の書類の数字だけで
2017年、2018年、2023年を比較してみましょう。
画像の通りですが、
順調にしか見えませんよね?
確定申告の書類ベースだと、
間違いなく売上も、所得も増えています。
ここに、資金繰り表のデータを追加すると・・・?
資金繰り表の情報を含めると・・・?
画像見て、
『え??』って言った方、挙手をお願いします(笑)
私も勉強会でこの説明の時
『は?は?何で?』みたいな状況でした。
講師いわく
『農業所得の多い少ないだけで判断していたら、
資金繰りで大失敗することがあります!』
とのことでした・・・。
先ほど言ったことの繰り返しですが、
こんな事に気付ける資金繰り表、やっぱり便利です。
今から少しずつその解説をします。
年収が増えたら生活が苦しくなった・・・だと?
サラリーマンの『年収500万円』
と、
農家や個人事業主の『事業所得500万円』は、
ちょっとお金の考え方が違います。
サラリーマンは、もらった給料から税金を引けば、全額『自分のために』使う事ができます。当然です。給料の中から自己投資のために、仕事に関係する本を買ったり、資格を取ったりする事はあっても、会社の発展のために給料を会社に返納する必要はありません。
ですが、個人事業主は、
1年間の事業所得から、『来年の運転資金』をキープする必要があります。農家の場合で言えば、翌シーズンの収穫(お金を手にする)までに、
種まきや育苗
肥料や農薬、資材の購入
トラクターなどの整備費
畑の管理や、それに伴う人件費
など、『収穫するまでに必要なお金』がたくさんあります。
運転資金とはこの事です。
ということは、
その年に1000万円の売上があり、
経費を500万円で抑え、
事業所得が500万円あったとしても、
その500万円から、
翌年の運転資金を使わずにキープしておく必要があるということです。
資金繰りが大幅に変わるケース
ケース①ローンを組んで機械等を購入した
前回の記事でも書きましたが、ローンを組んで、確定申告の損益計算書に表示されるのは、ローンの総額(元金/それに伴う購入した農機具などの明細)と、利息だけです。月々の返済額などは表示されていません。(厳密には貸借対照表 バランスシートには表示されていますが、今回は触れません)
この資金繰り表の場合はどうでしょうか?
まず変わるのが
年借入返済額ですね。
例えば月に300万円のローンを5年で返済する場合、年間に60万円の借入金返済額が増えます。確定申告の損益計算の書類に記載はありませんが、事業所得500万円であったとしても、この時点で実際に使えるお金が440万円になります。
(前述しましたが、このローンの利息は、経費に計上されていますので、この計算は元金だけで大丈夫です)
ただ、300万円の農機具を買ったとしたら、減価償却費の設定があります。
今回は定額法(農家の一般的な計算方法)て計算します。
購入する機械によって、償却率が違いますが、例えば年間40万円の減価償却費の設定された場合、購入した翌年以降、『その年に機械を買ってないのに、機械を購入した経費』が償却しきるまで、毎年発生します。逆に言うと、その金額は資金繰りとして余分に使えるお金となるわけです。
というわけで、
ローンを組んで機械を購入すると、
『年借入返済額』(使えるお金マイナス)
が増えて
『減価償却費』(使えるお金プラス)
も増えるということになります。
ケース②面積を増やした
面積を増やしたらどうなるでしょう?
栽培面積が増えると、売上が増えます。
ということは、資金繰り表の計算で言うと
『翌年の運転資金』も
結果として増えるということになります。
『面積増やしただけで運転資金が増えるワケないじゃん!』と思われるかもしれませんが、その増えた面積を管理する人件費はかならず増加するわけです。トラクターの運転者の時給に加えて、燃料代も面積が増えたらその分増えます。肥料や農薬代もしかりですね。
ネガティブな事を言いますが、
『今年は農業所得が少なかったから、
来年は挽回だ!!面積を増やすぞ!!』
と思い立って行動した場合、
『その年の農業所得は少ない』のに、
『翌年の運転資金は、面積を増やした分、多くかかる』
という、かなりキツい状況が起こり得ます。
そういった点も、この資金繰り表を使えば事前に予見できます。
結論:面積を増やすと、運転資金が増える
ケース③給付金が終了となった
当然の事ですが、給付金や補助金には、期限があります。
当然ながら、給付金や補助金が無くなれば、無くなった分だけ使えるお金が減ります。
当たり前じゃねぇか!!
と言われますが、ココにも少し落とし穴があります。
少し話が脱線しますので、この話は別記事にまとめます。
簡単に言うと、ローン地獄に陥るリスクがあるので注意、という事です。
→別記事 準備中
ケース④生活費をかなり増やした
子供が進学したから〜
家族が病気になって〜
など、お金を無駄遣いできない状況でも、
生活費がかさむ事は多いにありえます。
損益計算書でいうところの、『家計費』や、『事業主貸』が増えてしまったらどうなるか??
簡単にイメージできる思います。
事業として必要な『使えるお金』が減ります。そして、生活費に重きを置きすぎると、
『使えるお金』が『マイナス』になります。
具体的に言うと、家計費や、病院の治療費など、
生活費の方の支払いは問題なく行える代わりに、
事業用のお金の支払いが滞ります。
農協や農機具屋さん、
ホームセンターでの買い物の支払いが止まると、
当然次の買い物が出来なくなります。
銀行のローン支払いが遅れた場合、
購入した農機具や施設が差し押さえられたりします。
あなたにまだローンの融資枠が残っていたとしても、
『アイツに貸したらヤバイ』と判断されたら、
追加でのローンも組めなくなります。
生活費が払えただけでは、翌月の事業が行えません。
事業資金が回せただけでは、生活が出来ません。
『そんな状態にはならないよ。
俺には共働きの配偶者がいるから。』
『私は親元就農だから、生活費の心配はないよ』
そう思っている方もおられるかもしれませんが、一応、農業経験が5年以上あるものとして、私からひとつだけアドバイスを。
『今の状況が、当たり前だと思わない方がいい』
という事です。
私の住んでいる県内で、バリバリ働いていて、
恐らくかなり稼いでいた若い農家が、突然離農しました。
『えっ!?何で!?』と聞くと、
『ご家族のご病気』が原因とのことでした。
メインで働いているご主人はすこぶる元気なんです。ただ、影で支えていた奥さんが、農作業の手伝いを出来なくなった。逆に、子供さんのお世話も旦那さんが半々以上手伝わなくてはならない。仕事へかけられる時間が減ったら、当然売上も所得も落ちてきます。
結局、この方は奥さんや子供さんをサポートしてくれる親戚がいる町に引っ越しされました。
サラリーマンと自営業の違いのひとつに、福利厚生があります。有給もありません。
休業の制度もありません。
昨年まで、順調だった農家が、たったひとつの病気、たったひとつのライフスタイルの変化で、離農することもありうるということを、お忘れなく。
今回のまとめ
資金繰り表を作れば、
・確定申告の書類だけでは見えなかった
お金の収支が見える。
・今後の計画を立てる際に、面積拡大や機械購入など
経営の変化の予測が立てやすい
長文に最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。